書評
先日、過去に一つのヒット曲を生み出したバンドが、その後も自分たちを見失うことなく音楽活動を続けているという記事を読んだ。彼らはヒットした時も、100人のうち3人が自分たちの音楽が本当に好きで、あとの97人が、そんなに言うならちょっと聴いてみようと思ってレコードを買っただけだと思っていたそうである。その記事には、彼らは、好きな音楽をそれをよいと思ってくれている人々から、暮らしていけるだけの支えをいただいて続けていくということが「最も幸せな働き方」だと分かっていたと書いていた。本書は、経験豊富な精神科医、心理学者であり作家でもある著者が、幸福になるための考え方を伝授したものである。
著者によると、幸福を阻む理由として、人間の持つ適応力を指摘している。ある願望が達成されても、それに応じてさらに要求水準も上がり無限ループに入ってしまう。また日本固有の事情として、個人より集団を重んじてきた社会をあげている。他者を過剰に意識してしまい、自分の評価を他者にゆだねてしまっているということらしい。さらにこれらに加えて、日本人が非常に好奇心旺盛な国民であるということや、最近は「考えない」が習慣化していることだと言う。頭の痛い話である。
そんな中でいかに幸福を感じるかというのが本書のテーマであるが、一つは、幸福を定義しようとしてはいけないと説いている。幸せを定義した途端に、その定義と自分の状態を比較し、何らかのマイナスを見つけてしまう傾向が人間にはあるそうだ。その他にも、日常のなかに、どれだけ異なる「場」を持ち、時間的にも「今、ここ」にとらわれすぎず、「好き」あるいは身のまわりの小さな幸せに目を向けていくことの重要性を説明している。例えば、「好き」は、比較や競争や評価とは次元の違うところにあるとのことだが、確かにその通りだ。
また最終章では、幸せに生きるための「老い」と「死」に関する考え方について、著者の思いを綴っておりアラ還世代にとっても、改めて自らの幸福を考えるきっかけとなる本である。私自身も、60年近くいきてきたが、相変わらず回り車に乗ったねずみのように感じることがある。そろそろ考え方を変える時が来た。
(by おやじ1号)