厚生労働省の資料によると、平成27年の日本人の平均寿命は男性が80.79歳、女性が87.05歳で、ともに過去最高を更新しました。また、同省の別の資料によると、「平均寿命と健康寿命(日常生活に制限のない期間)との差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」を意味します。平均寿命と健康寿命の差は、平成22年で、男性9.13年、女性12.68年となっています。」とあります。この無視するには長すぎる「不健康な期間」というのは、判断能力が低下している場合が多くあると考えられます。その主な原因のひとつが認知症です。今後も、更に平均寿命は延びると言われており、自らの人生および相続対策を考える上で、この認知症リスクは無視できないことと言えます。
認知症などによって判断能力が低下した場合、法律行為は行うことができません。その場合の対策としては、従来から成年後見制度があります。成年後見制度は、判断能力が低下した人の法律行為や財産管理を本人に代わって行う制度で、法定後見制度と任意後見制度があります。(詳細は、本サイトの「親の介護」のパートをご覧ください。)ただし、本制度が機能するのは判断能力が低下してからになりますし、成年後見人等は家庭裁判所の監督下に置かれ、現実的には “本人にとって”最低限必要な支出しか認めらません。つまり、成年後見制度を利用した場合、相続人や家族にメリットがある運用や将来を見越した運用は認められないことになります。
相続税法改正以降に活発に行われている相続相談などでは、主に相続税を下げることを中心に取り扱っていますが、以上のような背景を考慮すると、上記のような判断能力が低下した期間をいかにすごしていくのかという対策も同じく重要であると言えます。そこで、最近注目されているのが家族信託で、この家族信託を遺言や成年後見制度とうまく組み合わせて活用していくことで、高齢者の財産管理や遺産の承継に上手に対応していくことが可能になります。